Book Design 6 「 平日 」

Category : 好きな装丁あれこれ
平日


装丁:野中 深雪
著者:石田 千(文藝春秋)

久しぶりの装丁話。

かつての印刷物は制作も分業化が明確で
まず文字の大きさをスケールで計り
(これも慣れることで的確な大きさを想定することができる)
写植指定し、印画紙に文字を焼き付けたものをカッターで切って
版下に貼るという手作業が大半を占める工程を経て
色指定し、ポジフィルムを添付し、調子を指示し、入稿するといった
かなり込み入ったものだった。
どれか一つが不完全でも成立しないということは同時に責任の所在についての
ゴタゴタも絶えないということで、今にはないストレスも抱えていた。

その頃に異様にこだわったのが書体だった。
当時は「写研」のフォントが圧倒的にシェアを占めていてデザインも優れていた。
現在頻繁に使われているモリサワの「新ゴ」は写研の「ゴナ」をパクったもの。
(とみんな思っているだろう。裁判沙汰になったらしいが写研の主張は通らなかった)
タイトルやヘッドコピーに使われる書体はもちろんのこと、
本文などの文字の集合は遠目に見ると、書体デザインの善し悪しがはっきりわかる。
当時は文字の詰め具合、行間に至るまで神経を尖らしたものだった。

版下作業がディスプレイ上で行われ、DTP(DeskTop Publishing)の時代への移行に
写研は対応しなかった(のか、できなかったのか)ために
2009年6月に事実上、写研は終った。

ちなみに「写研」で検索すると、そのクオリティの高さを賞賛するもの、
撤退を惜しむ声がほとんどだ。

この「平日」の装丁をされた野中深雪さんの他の仕事を見てみると
明らかに異質であることがわかる。
しかしこの上質なシンプルさを支えているものは書体に他ならない。
これは日本を代表するグラフィックデザイナーの田中一光氏のデザインが基になって
作られた「光朝」というフォント。
明朝のエレメントをここまで研ぎすましたのは
口惜しいが“新ゴパクリ”のモリサワにしてはいい仕事。
欧文書体のボドニーがフォルムのヒントになっている。
文字のレイアウトも絶妙で最近久々にインパクトのある表紙に出会った。
加えてタイトルと作家名の画数の少なさも効果を導き出した要因の一つだろう。
黒と白の潔さもまた…。
内容は東京のいわゆる名所の詩的ルポ、散文的に情景をコラージュしたもので
読み慣れていない人には独特の描写がしんどいかも知れない。
にしても、これは書棚に表紙を向けて“飾っておきたい”ほどに素敵だ。
「平日」と聞けば短絡的に汎用性のあるノーマルなイメージのものと連想しがちだが
こうしてキレのある強い書体で表すことで
「ケ」の日々の中にこそ見つけるべき事象が潜んでいることを示唆している。

↓ポチッとくれたらありがたき幸せ♪
にほんブログ村 美術ブログ 現代美術へ 

スポンサーサイト

Book Design 5 「ドイツイエロー、もしくはある広場の記憶」

Category : 好きな装丁あれこれ
ドイツ1

ドイツ2

著者:大崎善生
Cover Photo:ORION PRESS
装丁:新潮社ブックデザイン室

作者は1957年生まれというから御年52才。
恋愛小説は主人公の年齢や暮らしぶりが、
そのまま対象となる相手へのスタンスに反映するもので、
そもそも全方位的な恋愛(年齢差を越えたり、格差を越えたり)は
小説としては興味深いかも知れないが、やはりリアルではない。
おっと、恋愛小説にリアルは禁物だったか。

48才の時に書かれたこの恋愛小説は
“いかにも”大崎モデルと言ってよいほどに“らしい”4つの短編集。
初期から読み通している人には「またか」のおでましだが、
しかし、文体は相変わらず魅力的だ。
ここに年齢的な熟成度が伺える。
しかし50に近い男性が描く恋愛的表現、しかも主人公は女性。
よく書けるものだと感心してしまう。
鈍感なオヤジには間違って入ってしまったラウンジバーで飲むカクテルの味。

沸点には達しないまま、やがて冷め、また水銀はゆっくりと昇っていく…
そんな温感をもった“触れ幅”の少ないテイストを持った
しかし、なかなかに“尾を引く”小説だ。

さて肝心のブックデザイン。
これはフランスはアルルから40キロほど西の
アンブリュッスムという遺跡を撮ったレンタルポジだ。
変形のブックサイズ(やや面長、というより幅が短い)を意識したトリミングが美しい。
向かって左の木々に著者名が抜きで入っているが
これは写真主体のレイアウト。が、それが功を奏している。
タイトルの位置もこれより上ではバランスが崩れる。
上下の“空き”が中央に力を集め、全体を品よくまとめている印象だ。
オリジナルを見ていないので言いようが無いが
明らかに加工していると思われる、
枯れた色調が活版のような明朝とうまく折り合い、
通販のレビューなどを見ると、このカバーを見て手に取った読者もかなり居るようだ。

残念なのは裏表紙が表の反転になっていること。
よく使われるが、ことこの写真に関しては裏へはグラデーションで流して欲しかった。
写真は正直に“良いところ”で使い切って欲しい。

また新刊と文庫を同じデザイン処理しているので
文庫規格ではトリミングが違ってくる。
タイトルの入れ方も当然変わってくる。
せっかくの新刊のデザインの良さも半減してしまった。
(上が新刊 下が文庫)

Book Design 4 「国境」

Category : 好きな装丁あれこれ
国境

著者:黒川博行
装幀:多田和博
装画:西口司郎

僕の本棚に並んでいるうち、多田氏の装幀は何冊あるだろうか。
特に国産ミステリー、冒険ものが多い。
黒川博行の何冊かも、背表紙を見ただけで多田氏のものとわかる。
あとはほとんどの横山秀夫作品。
真保裕一、阿刀田高、福澤徹三のものもある。
何しろ月20冊以上を手掛けている装丁界の大家である。

ミステリーものの場合、題字は骨太の明朝体、
黒っぽい色合いの背表紙に、写実的な挿画が、多田氏のスタイル。
しっかりとしたプロットとリズミカルな話運び、
小気味よい文体のミステリーものには
読み手から見た「凛とした立ち姿」が似合う。
「永遠の仔」131万部、「レディ・ジョーカー」65万部、
「半落ち」57万部…
ベストセラーを記録する表紙デザインを手掛ける多田氏。
小説は背格好で読むものでは、決してないが、
「いい表紙は中身も面白い本」と言える確率は確かに高い。

この新刊本「国境」は多田氏には珍しく、白地。
やや長体がかった、やはり極太の明朝体が幅いっぱいに乗り、
古本などでの、いわゆる「腰巻き」が無くても
内容が“読める”細工が、タイトルの字間に置かれた深紅のハングル文字は
彩度が低い表紙にあって、確かに効いている。

写真では表現しきれない寒々しさと、
過酷・劣悪な状況を連想させるぐるりと巻かれた、
錆の浮いた鉄条網の装画が妙に生々しい。
それは近くて理解不能な国家、ボーダーラインの向こう側に潜む
ただならぬ気配を予感させる。
多田デザインの中でも異色な表紙といえる。


あの“疫病神”が帰ってきた。
今度の敵は未知なる“国家”。
底辺に生きる男たちが意地と矜持で国境を越える。
連載時からの話題作、ついに刊行。
国境てなもんは、地形や民族で決まるもんやない。
その時々の喧嘩の強さで、右にも左にもずれるんや。
金を持ち逃げした詐欺師を追って、
北朝鮮へ飛んだ建設コンサルタント二宮とヤクザ桑原。
2人を待ち受けていたのは、未知なる国家の底知れぬ闇。
2回の北朝鮮潜入取材を敢行、中朝国境の現実を描きつくした、
渾身の長編ノワール大作!(講談社BOOK倶楽部より)



Book Design 3「人はなぜバーテンダーになるのか」

Category : 好きな装丁あれこれ
バー

著者:海老沢泰久
カバーphoto:福井鉄也
装丁:鈴木成一デザイン室

バーカウンターは島の港だ。
霧が立ちこめていて前方の視界はあまりよくない。
が、確実にそこには停泊するための“止まり木”があるはず。
千鳥足の手探りで来る者もいる。
もっともすぐにお引き取り願うが…。
来る者は拒まないから、いろんな船がやってくる。
でもこの港には、この港ならではの掟がある。
あまり互いに詮索しないことだ。
できれば、時々立ち寄っていたいから、
あまり深入りしない程度がいいし、馴れ合いは禁物だ。
島の管理人はできれば初老の静かな男性と相場は決まっている。

表紙のバーカウンターの写真は
創業は大正の末、銀座のとある老舗バー(な雰囲気)。
13軒の13人のバーテンダーが、
店と共にある長い歴史にはさまれた栞のある
ページを確かめるように、それぞれに味のある逸話を語る一冊である。

モノクロの写真に艶消しの箔押しのタイトル。
タイトルのレイアウトは決定までに時間がかかったか…
中々に微妙なバランス。

最初に“島”とイメージしたのは
この表紙をじっと見ているうちにだった。
ちょっと“引いた”感じで撮った、
人待ち顔など、微塵も見せずに凛とたたずむカウンターから向こう。
向かって右手の色紙。
ルーペで見てみる。
「今日無事」とある。なんと素っ気ないフレーズ。
しかし、日々の“ささやかだが深爪をしたような痛み”をくぐり抜けて、
今日があるのだと思えば、この止まり木に休める時間を持てることへ
まるで手向けるかごときの言葉なのかも知れない。
書かれた人の名前は小さ過ぎてわからないが
なんとなく「山口○」と読める。ということは…
やはり山口瞳氏であろうか。

Book Design 2「泣きたい気分」 

Category : 好きな装丁あれこれ
泣きたい

著者:アンナ・ガヴァルダ
カバーイラストレーション:松本 圭以子
装丁:新潮社ブックデザイン部

1999年秋、本書で爆発的にブレイクしたフランス女性作家。
デビュー作である。御歳29歳。
パリを舞台にした、そう、カフェでお茶しながら
デートの待ち合わせによいくらいの軽妙な短編集。
本国では100万部を誇る大ヒットになった。

ソフトカバーなのでバッグにヒョイと入れて
電車待ちにヒョイと出して、
ホームに滑り込んできたら、スッとバッグに…

さて、内容はともかく
ソフトカバーにふさわしい表紙である。
手にした時の重量感と200ページほどの厚さは
まだ背表紙にレイアウトが反映される幅だ。

赤地に白抜きのタイトルもゴシックで正解。
字間もいいなぁ。
原題の「誰かにどこかで待っていて欲しい」の文字が
表紙色と反対色で少々ランダムにレイアウト。
このタイトルでは日本では受けそうもなかったかな。

ところで何よりいいのはイラスト。
白い丸椅子。スツールとでも言うのか。
実際にはこれほど細くないだろう4本の脚。
でも、この細さで猫の重さがなんとなく際立つ。

椅子の上の猫。
よく見ると椅子が透けて見えている。
今、居たと思ったら、もうどこかへ行ってしまった気まぐれさと、
どこ吹く風の後ろ姿。

松本氏はニューヨークのパーソンズスクールオブデザインの
イラストレーション科に単身飛び込みで入られたという。
根性人と見た。
余談だが個展では大好きなウサギのコスプレで
現れるという茶目っ気たっぷりの方らしい。

ネットでギャラリーを覗いていたら
すっかりファンになっていた。
アメリカ仕込みのイラストは
とにかく洒脱で、ちょっぴり毒気あり?

58カ国語に翻訳
English
お越しいただきありがとうございます

den

………………………………………
アート・ドキュメント・ブック・
ミュージック・演劇・ダンス・
朗読・時事・ひがみ・そねみ・
やっかみ・おせっかい…
などなどシッタカぶって書きちらかしては
自己嫌悪な日々をゆらゆらと
過ごしております。
「シッタカブリアンの午睡」
「デラシネ光合成」をこのたび一本化。
言いたがり、やりたがり、ノリたがりな
のんのんとしたブログにお越しいただき
ありがとうございます。
………………………………………

ここから、また…
最近の書き散らかし…
こんなこと書いてます
こちらへもどうぞ!