“良心的”ヴァーチャル…「ノーマン・ロックウェル アメリカの肖像」

Category : ドキュメントDVD
ノーマン

こんなに毒気の無いアーティストのドキュメンタリーも珍しい。
彼の生い立ちも私生活もほとんど語られず、
アーティストの苦悩といったものも
有ったか無いか、あまり描かれていない。
絵を通してしか、ロックウェル自身は知り得ない。

中流家庭に育ち、持ち前の天才的な天分を思う存分、
カンバスに(…ぶつけたという表現は全く似合わない)注いだ
“アメリカの良心”を文字通り絵に描いたアーティストである。
84歳で亡くなるまで実に4000点もの作品を描いた。

同じ教室でデッサンのレッスンを受けた同期生は言う。
「あのクラスの彼のは見ておいたほうがいい」
「ああ、ヒマがあればね」
「いや、絶対に見るべきだ」
強い勧めもあってアトリエに入ってみて絶句したという。
その技量は驚嘆すべき“超絶技巧”であった。
しかしながら、僕が好きなのは周囲の“そこそこ達人の妬み”である。
「ノーマンは僕らの誇りさ。でも相当にうらやましかったね。」
いや、彼らも相当な腕前であったろうが、突出した人間へを羨む気持ちは
誰にもあるし、そこにこそ、なおさらな人間臭さを嗅ぎ取る。
海賊の衣装を着たモデルのデッサン授業。
同期は言う。「僕の海賊は臭い匂いがするって言われけど
彼のは薔薇の香りがするとさ」

ロックウェルはわずか21歳でイブニング・ポスト誌に入社。
320枚もの表紙のイラストを書き続けた。
ポートフォリオを小脇に抱えた若造の採用を即決した社長の勇断も、
さることながら、この若さで挑んでいくという“自信”は
向かうところ敵無しの“確信”そのものであったことは想像に堅くない。

ロックウェルが描いたワンシーンは
風刺とペーソスを交えた「フィクション」の世界であった。
彼は朝スタジオに通勤するがごとく行き、カンバスに向かう。
絵のモチーフが決まると、モデルを読んで、部屋にシチュエーションに似た空間を作る。
ポーズをつけ、表情を自ら作ってみせ、まるで役者のようにモデルに注文をつける。
「君はまゆげが上がるかい? それほどに思いっきり笑えるかってことさ」

かつてのアシスタントは「彼は動かない映画の監督をしているんだよ」と言う。
頭の中で出来上がった“カートゥーン”を想定して、
その絵に見る側が「起承転結を思い起こさせる」イメージを魔法にように振りかける。
そこにはアメリカ人が絶賛する信念・寛容・苦悩・喜び、そして理想が見事に
一枚の絵の中に集約され、“アメリカの理念”とも言うべき肖像画が現れる。

“作られた話”は、子供は徹底して子供らしく、
一家の主はステレオタイプな“我が家のボス”を演じ、
犬までが表情をもって駆け回る。

優しい奥様、可憐な花嫁、物静かな老人、おしゃべりなおばさん、
決して恐くない警官…

彼は亡くなるまで、市井の人のアメリカ、普通の人々を
また、その場に居なかった人々に
新聞でしか語られない“事実”をスケッチするがごとく
偉大なるアメリカの危うさ、ダークサイド、そして“DREAM”を描く。

アメリカン・ホームドラマのひとコマを見ているような
ささやかで大げさな「嘘」。

ヴェトナムやアポロやケネディ。
黒人参政権を進めた活動家の射殺や、陪審員たちのジレンマ。

これだけの技を備えた超人的・職人的アーティストの
手にかかると、歴史に残るものやかすりもしない日常のワンショットが
いとも簡単に、ざわめきや歓声や落胆やすすり泣きや同情や
歯がゆさを感じられるほどに
我々を錯覚させるのである。

何よりも「品」のあるその画風が…





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