祝うべきものの変わり様…「バースデイ・ストーリーズ」

Category : 100円本雑読乱読
バースディ

編訳:村上春樹(中央公論新社)

僕が気に入っているのが
冒頭のポール・サイモンの「Have a Good Time(楽しくやろう)」の歌詞。

昨日は僕の誕生日だった。
この一年をまた洗濯ロープに吊るした。
しっかり落ち込んでいるべきところ。
なにしろ僕の人生、でたらめだ。
でもけっこう楽しんでるんだよな、これが。


なんだかポール・サイモンらしい。
今日の話でなく、昨日が誕生日だってのが素敵だ。
でたらめな人生にもうひとつ“箔が付いた”ってもんだから。

村上春樹が誕生日をテーマにした海外短編小説を10作選び、翻訳をしたもの。
最後に自らの作品を入れている。
早世した人が行きていたらお祝いできたはずだったであろう誕生日は悲しい。
さて、誕生日をうれしくも何とも思わないのは
果たして不遜で、不適切であろうか。罰当たりかも知れない。
何でもない一日。できれば早く過ぎ去って欲しい一日と願う人も当然居る。
誰もかれもが暖かな部屋で、あるいは洒落た店で
自分のことを大好きな人と共に過ごすとは限らない。

この短編に収められた、さまざまな誕生日は
ゴージャスなものから冴えないもの、不思議なもの、痛々しいものと
いろいろだが、どこかに、何ともいえない「寂寥感」が漂う。
もちろん年齢にもよるだろうが、
それは“成長”という過程をとうに過ぎて(変な話である。成長が止まると同時に
老いがスタートするというのでもないのに)
うれしくもなんともない日々の中のほんの特定の、
一年に必ず一度やってくる一日に過ぎない「誕生日」を
誰が、どんな形で“意識”し“反応”してくれたかという、
“結末”を思い起す日なのだ。それもある時、ふと…。

それにしてもレイモンド・カーヴァー(村上氏の大好きな)のは
訳者が言う通り、まるで“ぶっきらぼう”。
誕生日に子供が車にはねられて…死んでしまうとは。
後味も何もあったものではない特異な短編「風呂」。
両親といろいろあって、自分の誕生日に家に帰れない青年。
友達を言づてに実家に寄越すが、その友人は飲んだあげくに
玄関の銀の置物を盗み、1ポンド半の金に変えてしまう「ティモシーの誕生日」。
誕生日に間違って友人を射殺(!)してしまう「ダンダン」。
「バースデイ・ケーキ」というとってもポジティヴなタイトルに反して
誕生日用のケーキを少女に絶対譲ってやらない醜悪な婆さんの話だったりする。

村上氏が後書きで言うように小説家は元より「ハッピーハッピー」が
お嫌いであるという“性質”に起因しているのかも知れない。
不幸な誕生日ほど話のネタになるものはない。
飲んだ店で、素敵な誕生日話を聞かされるほど退屈なものもないだろう。
それより、よりに寄ってその日に一年分の不幸を
背負い込んだような話に人は食い付くはずである。
こんなこと言ってると、自分にお鉢が回ってきそうだが…。


スポンサーサイト

Comment

非公開コメント

58カ国語に翻訳
English
お越しいただきありがとうございます

den

………………………………………
アート・ドキュメント・ブック・
ミュージック・演劇・ダンス・
朗読・時事・ひがみ・そねみ・
やっかみ・おせっかい…
などなどシッタカぶって書きちらかしては
自己嫌悪な日々をゆらゆらと
過ごしております。
「シッタカブリアンの午睡」
「デラシネ光合成」をこのたび一本化。
言いたがり、やりたがり、ノリたがりな
のんのんとしたブログにお越しいただき
ありがとうございます。
………………………………………

ここから、また…
最近の書き散らかし…
こんなこと書いてます
こちらへもどうぞ!