理由なき人生訓…「マン・オン・ワイヤー」

Category : ドキュメントDVD
581972.jpg

監督:ジェームス・マーシュ

ワールド・トレード・センターのツインタワーの間を
綱渡りしたフィリップ・プティのドキュメンタリー。
一口で言えばドキュメント部門の総なめ映画。
高い評価と絶賛の嵐。
やはり獲得ポイントはモノクロの再現映像となるか。

若きプティの彼女との幸せに満ちた映像の裏には
強引なまでに口説き落とした彼の「やりたいことには必ず挑戦する」という
リスクをものともしないモットーがあった。
ノートルダム寺院、オーストラリアのハーバー・ブリッジも成功させ、
彼は新聞に掲載された「ニューヨークに建つ世界一のビル」の記事に
一発で食い付く。
パリとニューヨークの往復を重ねるうちに計画は具体性を帯びる。

彼らの中の真実が迫真をもって語られるインタビュー。
仲間同士の軋轢、疑心暗鬼、性格分析…。
面白いのはプティのために集まったメンバーの中には
現場で諦めて帰ってしまった者も、大麻中毒者もいたということ。
単純に言えば「裏切り者」ではあるが、だからこそ彼らの言葉は
貴重な意味を持つ。
30年の今,笑いながら忌憚なく語るその語り口はやがて、
観客に“予定通り計画は実行されるか”という緊張感をもたらす。
結果は誰もが知っているのに、である。
いかに馬鹿げた計画であろうとも、一人の欲望のために
仲間が集まり、互いに知恵を絞り、議論し、
シミュレーションを重ね、仔細に算段する。
それは大きな代償を伴う、対価無きパフォーマンス。
しかも立派な犯罪。
事実彼はぶち込まれるのだが…。

私たちは、明るくて底なしのバカバカしさと
確率を考えるほどに恐ろしい危険を孕んだ
こんな挑戦をする「人間が実際に居た」という事実に
驚嘆するのだろう。

さてどうやって鋼鉄のワイヤーを
60メートルの距離に建つあちら側のビルに届かせるか?
これも驚きに値するエピソードである。

世界一高いビルと言う鳴り物入りWTCは
しかしニクソンのウォーターゲート事件、それに伴う政治不審、
インフレ、ベトナム戦争批判、人種差別問題など山積した
大国アメリカの“膿み”が滲み出た頃の竣工で
必ずしも評判は良くなかったようである。
驚くのは当時大半が空き室状態のWTCが
プティの成功が宣伝となって、なんと当日中(!)に
テナントが埋まってしまったのである。

芸術的犯罪と呼ばれるものを賞賛するほどの鷹揚さは
現在では無いかも知れないし、
そこには醜い尾ひれもつくことだろう。
いや誰かが巧みに利用しようとするかも知れない。

作業員たちのビル建設の様子も映す実写フィルム部分を見ていると
多発テロを思い出すが、このドキュメンタリーでは一切触れてはいない。
それは、綱渡りに成功した瞬間、この二つのビルは
プティのためにあったからである。
厳粛なる彼自身の人生訓を刻んだモニュメントとして…。


にほんブログ村 映画ブログ ドキュメンタリー映画へ

↑クリックくれたらうれしいな♪



スポンサーサイト

Comment

非公開コメント

58カ国語に翻訳
English
お越しいただきありがとうございます

den

………………………………………
アート・ドキュメント・ブック・
ミュージック・演劇・ダンス・
朗読・時事・ひがみ・そねみ・
やっかみ・おせっかい…
などなどシッタカぶって書きちらかしては
自己嫌悪な日々をゆらゆらと
過ごしております。
「シッタカブリアンの午睡」
「デラシネ光合成」をこのたび一本化。
言いたがり、やりたがり、ノリたがりな
のんのんとしたブログにお越しいただき
ありがとうございます。
………………………………………

ここから、また…
最近の書き散らかし…
こんなこと書いてます
こちらへもどうぞ!