覗いてみても何も見えない深くて暗い川…「仇野の露」烏丸ストロークロック

Category : パフォーマンス見聞
仇野

7月9日→7月11日【アトリエ劇研】

演出:柳沼昭徳 
出演:坂本麻紀・桑折 規・中嶋やすき・新田あけみ・川北 唯・田中 浩之

演出家というのは全身これ妄想の権化である。
その妄想に一生懸命にしがみついて、振り落とされないように観たりするのだが、
至って観客は手厳しい。
前にも書いたがエキセントリックな芝居は観客の“何か”をたぶらかすと思う。
意表をつくやり方や唐突な感じに無邪気に喜びを感じたり、
またその前衛的な空気の中で悦に入ったりするのは
現代美術とよく似ているなぁと思う。

僕は素直な芝居が観たい。これはいつものこと。
烏丸ストロークは当たり前のことを当たり前にして観せる。
素材はその辺のスーパーの野菜。
で、レシピも至って普通。
化学調味料だってしっかり使う。
だからスローフードなんていう段取りばかりに時間のかかる
もったいつけた料理はそのテーブルで食べるにはちと高尚すぎる。
でも、後から胃壁にじんわりと滲み込む、
例のラー油のような“後引き感”が残る。

当たり前のこと、とは実は誰しもが思い込んでいる虚像や偶像に過ぎず、
通り過ぎる人々はみなそれぞれの事情をかかえて
なんとか酸欠にならぬように人生を生きているのに
その“事情”なんぞ所詮人ごとだ。
知る由もない。
この知る由もない出来事にまつわるエピソードこそが
烏丸の調理法であると思う。
観客に付け入る隙を与えない芝居はやはり疲れる。
目をまわすほどに展開の早い、いや早口でまくしたてるセリフも
ただ役者のスキルってのを、ふとそこに思うだけの
寂しいコマ送りにしか見えない時もある。

等身大の芝居なんぞ見たくない、と言う人もいる。
でも芝居というレールに乗って、
己の生活ぶり、信条、環境、経験というレールと交差する瞬間、
それこそが演劇との幸福な出会いではなかろうか。

第一話「ふたりで悟った夜」
勝手にほだされた男からの別れ話。よくよく聞いてみると他の女に子供ができた。
どうやら脅迫まがいをするとんでも女。さて彼の恋人である女は或る選択をする。
最初にズボンを抜いで、事に及ぼうとなる展開で男が拒否。
以後、ズボンはずり落ちたまま。最後までパンツ丸出し男。
このユルい下半身と主体性のかけらもない男にこれほど似合う姿もない。
泣いてすがる男と決断する女の不思議な連帯感は
これからの恐怖にも似た不幸な結末を暗示する。

第二話「怪火」
僕はこの話が一番好き、というよりも“入ってくる”。
離婚を前提の夫婦の独白と冷えきった会話が交互に繰り返される。
部屋を引き払う。車も売った。後は離婚届を役所に届けるだけ。
男の過去。
コンプレックス、就職、社長との関係、そして成功。
何に対して成功したのか、自問自答する男。
社長によって新規事業に足を突っ込むが事態は危うい方向へと…。
あの「成功」のさなかに二人は同僚として知り合い結婚。
わずかだけ“盛り土”だった頂点での所帯はそのまま、縮尺な人生へと転がり落ちていく。

第三話「仇野の露」
認知症の妻。昔行った京都の化野念仏寺へ部屋の中で、回顧の旅に出る妻。
共に戦争孤児。孤児院で知り合い結婚。
仕事にかまけて家庭を顧みなかった夫へのささやかな怨恨が
肥大し、憎悪の寸前で別のカタチとなって妻に表れる。
うろたえながらも妻と共にもう一度、“仮想として生き直す”夫。
支え合う二人の老い先は短い。
でも僕には寂しさや苦しさよりも“その人”しか居ない、頼れない現実に
おぼろげで儚い幸福感を見る。
ささやかだけれど、しあわせなこと…ありきたりのこんな文言が浮かんでは消える。

3つの話とも「過去」が重要なファクター。
子供を懐妊させた、未来に大きな痕跡を記す“過去”を持つ若い男。
世の中がイカレていたあの狂乱バブル。夫が過去に犯した罪に震え、おびえる夫婦。
あの戦後から現在に至る歴史を自らに重ね合わせ、
過去と共に“生き続けて”いく寄る辺ない老夫婦。

最後の話などは会場のあちこちで鼻をすする音。
僕は根が単純なものだから、ほとんど目の凹みに涙をぎりぎりとどめていた。
帰りも西日がきつく射す晴天に恵まれた梅雨の中休み。
でも、この芝居を見た後はそぼ降る雨の中を
肩をすぼめて歩いて帰るのがふさわしいな、と
そんな気がした。

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Comment

こんにちわ。
ますますご活躍のことと思います。
お暑いですね。
パリは湿度も高く、例年に比べもっと暑さがやってくるらしいです。
拝見していていつも同じことを書いてしまいますが、
いろいろなものを観られて
どうしてあのように心に響く文章に置き換えることがおできになるのか、
不思議でなりません。
子供の頃からご両親の影響がよくてらしたのか、
ご自分の努力の積み重ねの賜物なのでしょうか。
ほんとにすごくて拝見するのがやめられなくなって、癖になります。
denさんも日本を憂いていらっしゃるように思います。
私もおっしゃって下さったように微力でお恥ずかしいのですが、
海外から日本最高と叫び続けたいと思います。
いつもありがとうございます。
ではまた!

こんにちわ。
お暑いです。
京都はお寺や坂などが多くて
涼しいのではないかなぁなどと想像しております。
ツールもいよいよ終盤に入って
どうもコンタドールの優勝ではないかと噂されておりますが、
番狂わせが起こる方が面白いなーなどと思っております。
また面白いnewsが書けるようにがんばってみます!
ありがとうございました。
ではまた!
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