シャワーは熱き魂のクールダウン…「ROAD TO ROUBAIX ロード・トゥ・ルーベ」

Category : ドキュメントDVD
ルーべ

監督:デヴィッド・ディール、デイブ・クーパー

至って評判の悪いドキュメンタリーであるらしい。
らしい、と言うのは熱狂的なファン以外に誰が観ようか、といった意味でである。
1時間半ほどのほとんどを“たわいない”質問を
選手やメカニック、メディア関係へ投げかけただけのもので
レースシーンが最後の最後にわずかにあるだけ。
レースの臨場感を効果的な音楽とナレーションで楽しみたいという人には
以上のような理由から不評になる。
何を期待したかで評価は分かれるだろうが
もとよりドキュメントはレース実況ではないはず。

「優勝したらどんな感じ?」
「パリ~ルーベはどんなレース?」
「勝つ為に必要なものは?」
確かに質問としては起伏もアイデアもないが、この単純な問いに答える彼らたちの
表情の中に“静かなる闘志”を湧き立たせているのがよくわかる。
平坦で当然な答えよりも“走りの怖さと喜びに執着する選手自身”を証しでもある
挑戦者たちの澄んだ瞳の奥を覗くのである。
おおよそ自転車レースには似つかわしくないロケーションである
パヴェと呼ばれる石畳を走ることから「北の地獄」とも称されるクラシック1dayレース。
フランスのパリとルーベ間約260kmのうち、驚愕の石畳レースは総延長約53km。
石畳と言ってもロンドンの上品さなど微塵もない、
かつては戦争が当地であったという中々に粗野な様相の石畳である。
このボコボコに石の上を走る自転車も「振動」というやっかいな問題をクリアすべく
それぞれが智恵を絞ってレースに臨む。
ギア、グリップのテープ、空気圧、タイヤ、ホイール…
パヴェも1から5までの難関レベルが設定されていて、攻略法もまた個性的だ。
石による振動でタイヤをとられ、落車すれば一人では済まない。
またもれなく付いてくるパンクトラブル。
108年もの歴史は自転車の姿を、機能を、性能を進化させるが
動力はどこまでいっても人間であり、執念というバッテリーである。
一体何のために誰がこんな道を走る競技など思いついたかに心は向かう。

パリ~ルーベへの選手たちの想いは冒頭で語られるランス・アームストロングの
「私のキャリアで唯一残念なのはこのレースに参戦しなかったこと」の言葉にあるように
特別の意味を持つ。
完走することは賞賛に値する、というイヴァン・バッソの言葉も
“伝統のシャワー”を浴びる各選手の表情を見れば当然だとわかる。
僕自身は、長いと思われるインタビューも、
短いと思われる、解説も“あおる”ような音楽もない、
あえてモノクロ画像のレースシーンや完走者が向かうシャワールーム、
さらに高みを目指す選手たちの目に焼き付けられる、
その間仕切りに記された、そこにある何よりも光輝く往年の優勝選手のプレート、
このシーンのためにあると考えている。
このシーンだけをリピートするだけで値打ちがあると思っている。
まるで昔の臨海学校に行った時に使わされたような古いシャワーは
歴史的な聖域であるはずだが、なにしろ人でごったがえしている。
ウェアを脱ぎ、じっと座る埃だらけの目だけがぎょろっと光る顔は
自分が走り切った充実感を少しずつ絞り出すようにして一点を見つめる。
これは地獄から生還した男たちの聖なる儀式なのだ。
そういえば選手たちは誰にサインを求められても決して断るようなことはせずに
どんな小さな紙にでも、またツーショットにも気軽に気持ちよく応じる。
ファンも周知の知人のごとく彼らに接する。

深い自転車競技への理解と賛同。
市民生活にこれほど浸透したスポーツは欧州以外では
中々想像することが難しい。
一瞬で過ぎ去るお目当ての選手のためにキャンピングカーを
デコレーションして何年も通い続ける人。
他のレースのようにメカニックが並走することができないので
ホイールのトラブルには結構なロスが生じる。
すると沿道に居る自前のホイールを選手に差し出して早く行けというファン。
選手を一生懸命押して走るファン。
熱いひとたちである。
その熱きエールの渦中に居る選手たちもまた、
冥利に尽きる人生の一部を
こうして全うしているわけだ。

優勝トロフィーのデザインはふるっている。
パヴェの石が施されたもので、彼らはその石にキスをするのである。
憎っくき石に…。
いつかこの目で見たいものである。



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Comment

こんにちわ。
denさんはエライエライエライ!
そしてすごいすごいすごい!
もうそのほかに言うことがありません。
あのDVDを観てdenさん以上のことを書ける方があったら、
この指と~まれです。
ほんとになんだか嬉しくて
たくさんの方にdenさんのように深く自転車を観てほしいとつくづく思いました。
私も動画を拝見しましたが、またDVDを出してみてみます。
Tour de Franceも残り2日になってしまいました。
お暑いのでお気をつけて。
ではまた。
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