献体。

Category : 浮世の「うっ!」
母は京大白菊会の会員である。

もう何年か前、母が突然「献体する」と言い出した。
まだ一人で生活できた頃である。
彼女の中に僕を育て切れなかった悔いが残っているのか、
それとも「献体」という手段そのものに
短い老い先への彼女なりの心の平安、
つまり医学の役に立てたらという
人生最後の「仕事」と捉えていたのかは定かではない。
どうせその時に訊いても答えなかっただろうから。

献体の意志を聞いた時もさほど驚かなかった。
何を決めるのにも相談するということのない人だったからだ。
本人も早く早くとせき立てるので、
京大病院に行き、手続きを済ませ、正式の会員となる。
毎年秋になると慰霊祭(解剖体祭)が左京区くろ谷の
金戒光明寺で開催される。
今年も10月に解剖した会員を合祀し、遺族や来賓、医学部教職員、
医学部学生、白菊会会員など600名余の
出席のもとに執り行われたと言う。
話を聞いたが、それはそれは丁重な扱いで
医学生と職員の深々とした礼の列の中を
進んでいくんだとか…驚きを交えて話していた。
法要が済めば立派な料理と酒も振る舞われる。

つい2年ほど前、ぼちぼち施設の世話になる頃、ふとつぶやくように
「献体はやっぱり辞めたい…」と言い出した。
葬式をあげることにあれほどこだわらなかった人が、である。

先日、京大白菊会から会誌が届いた。
住所変更などは速やかに知らせなければならない。
献体を辞めたいと言ってから
認知症は三段飛びで進行している。
今では献体そのものもわからないだろう。

献体すると言った母の謎。
辞めるといった母の謎。
そのどちらも尋ねることは、もはやできない。

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Comment

No title

こんばんは。

でもお母様にそっと尋ねてみてはどうでしょうか。
状況も把握してない上ですいません。

to てぃー松さん

てぃー松さん、
コメントありがとうございます。

そうですね…
今日施設に行く日なので
訊いてみようかな、と思ってます。
手続きもありますしね。
でも献体の意味、覚えているかなぁ…
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