繰り返しトレースされるハッピーエンドの輪郭…「 KIM YOUNGSUK 金 暎淑 個展 Tracing Happiness 」

Category : 現代美術シッタカぶり
6月7日→6月12日【 同時代ギャラリー 】

金さんという“ワタシ”。
彼女のプロフィールを見る。
僕たちがそこに作品との何らかの因果関係を探るのは
便利な言葉で表せば人情ということになろうか。
金さんが自身の出自を明かすことに
なんらかの迷いやためらいがあることも、
少なくとも僕なりに理解する。

結局のところ、みんなどこまでも“ワタシ”という
時に嘆息の源であり、時に歓喜に打ち震える繊細な生き物であり、
時に嗚咽する、柔らかく弱く、か細い動物であること、
その事実からは逃れられないし、それに抗うこともまたできない。
誰でも悩ましい日々の中に身を置きながら
しがらみというクモの巣にまみれながら、なんとか持ちこたえている。
そんな毎日に出会う多くの人にとって
「在日コリアン3世である金さん」はどう映るのか。
ここから話を始めると結局ステレオタイプな人物像、
あるいは彼女の見も知りもしないイデオロギーを詮索することになる。
何らかの“スペシャルな”ファクターが彼女に潜んではいまいかと、
あらぬ期待をしたりする。
そんな現状をあっさりとスルーする。
それは様々な自己のディテールを取り除くことから始める。
それこそが今回の作品のテーマ。

という前置きの長さそのものが、僕がすでにそのスペシャルに
否応無しに取り込まれている証拠か…。

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「物語」は普遍性に満ちている。
それがエンターテイメントであればあるほどに
世代や人種、言葉や宗教すら軽々と越えて、
“人間”や“擬人化された動物”や“空想の生き物”たちに
存分に動いてもらいながら、知らず知らずのうちに
提示された普遍的な問題について、こうあるべきである、と
教え込まれる。それもそこそこに楽しく…
さらに「この話には続きがあって」とか
「この話が言いたいことは、実は…」とかの
おまけまでついてくる。

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↑別室のトレーシングペーパーに描かれた原稿

個人のディテールの徹底的な排除は
人の手によって創作されたものをトレースするという作業と
さらに出力するという二重の過程を経て完結する。
金さんの言う“個性の省略”である。
白雪姫に代表される物語における普遍性は
或るタブーを犯すといったところから、驚きの奇跡へとつながり、
ロマンチックな巡り会いへと発展する。
しかしそこは同時に欠くべからざる要素として
儚さや切なさもセットされる。
また“変身願望”や“怖いもの見たさ”も人生の普遍(人情)であることを思えば
ここに「のんのんばあカッパの水」のシーンがあることも何らフシギではないし、
ピノキオや鉄腕アトムも然り…。
こうして金さんは創作物にオリジナルな匂いが無いにもかかわらず
とてもオリジナルな作品を示してみせる。
101匹わんちゃんも、たくさんの犬の形をなぞっていき、
次に模様を加えることで、ぞれぞれの犬としての存在が浮き彫りになり、
その模様の大きさや位置によって区別されるものとなる。
このでんでいけば、ワタシも他人も単なる模様の違いにしか過ぎないのではないか。
ワタシのそんな「アザのような模様」が
よりワタシ自身を過剰に意識させているに過ぎないのではないか。
これは重いギアをニュートラルにシフトした作家の小さな、しかし深い叫びのように思える。

ネットや雑誌からトレースされた、
別室に展示されているオリジナル(?)と比べて
出力されたプリントのつぶれ加減やかすれ加減そのものが
二次的、あるいは二義的な意味合いをもたらし、
より大胆なディテールの排除に一役も二役もかっている。

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2003年の作品に「成分表示」というのがある。
金さん自身の「朝鮮国籍から韓国国籍への変更手続き」を追った作品で
この書面的な大きな違い、言い古された言い方で恐縮だが
金さんの“印”として、あるいは(インターナショナルという観点からの)
アイデンティティを表すものとしての
国籍変更手続きがたった三日で終了するという「変わらない違和感」。
その違和感にほっとした、とコメントされている。

金さんは福島出身。
現在は避難所となっている赤坂プリンスホテルで寝起きしている。
この作品もそこで制作された。
風評、同情、揶揄や、やりきれなさ、無念さ…体験されたチクチクとした感触は
作家としての問題意識を研ぎすます砥石になるに違いない。

金さんのサイトは↓
http://www.geocities.jp/khmmf196/

ぜひご覧ください。
※今回のヘッドコピーは個展のものを使わさせていただきました。

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