ローアングルで草いきれとその向こうを見る、山に溶けた画家…「 犬塚 勉 展 ~ 純粋なる静寂 ~ 」

Category : 現代美術シッタカぶり
犬塚1

1月6日→1月23日【 京都高島屋グランドホール 】

確か中学1年生の頃だったと思う。
親しかった友達と丹沢に沢登りをしに行ったことがあった。
山など満足に登ったことがない僕が、
なぜ無謀な沢登りをしに行くことになったかについては
遠い記憶の渕に引っかかったまま、定かに思い出せない。
新聞配達をしながら家計を支えていた彼は
学校でも人望を集めていた苦労人で
勿論そのことをからかったりする者は一人とて居なかった。
確か彼の兄のお古であるコッヘルやテント、毛布やなんやかやを
これも戦後の買い出しかというほどの
大きなリュックに詰め込んで、とにかく
初めて友達と(家以外で)了解済みで泊れるということで
あの高揚感は今も覚えている。
3人で登りかけた沢は想像を遥かに越えたリスキーなものだった。
彼からは必ず、わらじを持ってこいとの指示があった。
「沢登りにはわらじが一番さ」
今から思えばなんともアナクロな話だが
実際これが使い勝手がよく、沢からの山水が流れるなか
苔の上を歩いても確かに滑ることはなかった。
しかしそのうち鼻緒がくい込んで痛くて歩けない。
終いには切れてしまい、なんとか繋いでしのいのだが、
何度も手が岩から離れ、ずるずると落ちて体力が消耗していく。
なんでこんなところへ来てしまったんだろうと、
誘った友を恨み、決断した自分に落胆した。
これが最初に本当に死ぬほど怖いと感じた山体験だった。

つまらない私事から読まされる皆様には申し訳ないが
この絵を見ていてまず浮かんだ景色、空気が
あのちょっと酸味の効いた思い出なんである。

しかし犬塚勉の絵には
そんな覆いかぶさるような壮大な対象としての山は描かれていない。
確かに谷川岳で遭難し、38歳の短い生涯を閉じた犬塚勉が
どれほど山を愛し、足を運び、自然への畏敬とその織りなすディテールに
強烈な嫉妬をしていたかは想像に堅くない。
もはや山岳人としての顔がそこにあったはずである。

普段からスーパーリアリズムな作風の絵には
とんと興味が湧かない僕が見たくなったのは
決定的にその「構図とアングル」にあった。

会場の構成は大きく分けて「画家としての変遷」と「自然を描く」とに
分けられているが、明らかに観客の目的は風景画だ。
正直初期の作品は僕には魅力に乏しく映った。
何を描くか思いあぐねているような揺れる心象がそのまま
写し撮られているようなものが多くて、痛ましくさえ思えた。
2009年NHKの「日曜美術館」で紹介され、
嫌な言い方で申し訳ないが“ブレイク”した犬塚勉。
風景を描く人は無数に居るが、こうした個性と
宿命的ともいえるある種の“伝説”を残せる人は希有である。

自然の中で自給自足生活を夢見ていた犬塚勉にとって
自分を含めた「家族」とは何だったのだろう。
生臭い家族との生活と
山に向かい合いながら潔く己の芸術を高めていく日々は
いわば対局にあると凡人の僕などには思えるのだが
その一致点、折り合いをつける前に亡くなってしまった彼が
「自然になりたいんだ」という詩人のような心の叫びを残し、
そしてこれほどの圧倒的な筆致をもって
描いた風景作品は見る者をまず黙らせる。
巧いとか、凄いとかの評価ではない、
山で死ぬことを覚悟していたような執拗なスタンス、
低空飛行する鳥に彼自身が乗り移ったかのような目線が
精緻な描写以上の強い想いをこの絵に抱かせるのだ。
最期まで絵について妥協しなかった彼は
そうして納得するまで同じ山に上り
その度に表情を変える対象を
それこそ恨めしく思った瞬間もあったであろうと思う。
そこにひとり佇み、自分だけが知る事の出来る光と影や
一つの木や石に愛に近い感情をもって何度も抱擁するように
描けるテンションとは何なのだろう。
風景を前にした時に目に入る全てのものを誠実に描き取ることは
もう画家というよりも成すべきことを成すだけといった
自然界の信奉者にも映る。
崇高なまでに純化され、自然と一体化したかった彼の
所産をこうして目にできることの幸せを感じとれることが
作品の前に居る観客の特権であると思いたい。

犬塚2

犬塚3

犬塚4

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