飼い慣らせない画材と添いながら… 「 繋ぎとめる/零れおちる 」

Category : 現代美術シッタカぶり
2012. 9月1日→ 9月30日【 eN arts 】

もう何年前になるのか、
最初は家族を無理矢理アウトドアに引きずり込んで、
いや引きずり出して、キャンプ道具一式を勝手に揃え、
それなりに楽しんでいた。
しかし子どもが中学生にもなると、
この唯一の家族イベントは途端に色あせ、
そして誰も行かなくなる。
スコッチテリアという癖の強い犬を飼い始めた時に
思い立ったのは一緒にキャンプに行くことだった。
初めは家内も一緒だったが、やがてシッタカと犬だけになる。
こいつと一緒に行く先は決まって片道4時間のスキー場。
ロッジの先のその先にほとんど誰も寄らない、
夜になると鹿やクマが出没するというキャンプ場であった。
シッタカは昼間は森で犬と共に薪になりそうな木をせっせと拾う。
キャンプの目的はただひとつ。
焚き火である。ただこのために往復8時間を費やす。
買い込んだウイスキーとクーラーボックスのかち割り。
火がはぜる音とカップの中で氷がかしぐ音が
シッタカと犬だけの満天の星空の下で小さく響きあう。
焚き火は見ていて飽きることがない。
生きているかのように大きく揺れる炎と炭化していく木。
風が吹く度に深呼吸する赤い鼓動を見ていると
そのまま太古にタイムスリップしていく……

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それは鮮烈だった。
このセンス際立つギャラリーのエントランスに設けられた展示スペース。
壁に作品が「掛かる」という従来の予想は見事に裏切られる。
壁そのものが焼かれている…その印象は
炎に犯されているようにも、踊り疲れた痕跡にも、
あるいは抑制がきかない己に身をよじっているようにも映る。
一見、壁をダイレクトに焼いたかにみえたそれは
実は焼かれた作品を板ごとギャラリーの壁面そのままのサイズで
貼られているもので、この仕掛けも含めて、
鑑賞者は再び驚かされる。
それはとりもなおさず「火」を使うことで生じる制約そのものでもあるのだが、
消防法という“縛り”そのものも
作品の中に観念的に取り込まれるほどに
この作風がいかに独自性に溢れたものか理解できる。

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↑様々な種類の紙を上方で固定し、下から火を放つ。
めくれあがりながら燃える紙…炎と煤の痕跡は強烈なインパクトを与える。

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作家である田中真吾さんは大学3回生ぐらいから
意識して火を画材として作品づくりを続けている。
立体を焼いたものから平面に移行していく過程には
火を画材としたタブローに行きついたという感じがしてならない。
「火の成り行きまかせ」をこうして目の当たりにすると、
一度放たれた火はすでに作家の意志とは
その関係性を絶って初めて成立しているという点で
火の持つ驚異的な浸透力を改めて認識する。
当初は火を浄化や破壊のメタファーとして使っていたが
大学院に入る頃にこうしたメッセージ性を“引いて”いく。
火を純粋に“目の前にある現象”として捉え、
それと向き合うというスタンスで制作してきた。
それはおそらくは自然科学の範疇に於いて火というものの
存在や性質と率直に向き合うということではないか。
しかしここに火の持つ神秘性や宗教性、
何よりもヒトのみがコントロールできる(当然制御不能に陥る場合もある)
“道具”であることを鑑みれば、
作家も語る「感慨」という言葉に行きつくのはごく自然なことだ。
そして火に対して動物が本能的に恐怖を覚えるように
人間に特殊な経験としてトラウマを植え付けるに最適かつ十分な
「火」という存在もある。
火について負のイメージ、それは破壊や破滅、消失感、絶望といった
印象を持たれる方も居て然るべき、なのだ。
明かりとして、食事作りに、そして戦争のツールにも使われてきた
「火」は極私的には自我の欲望を満たすためや
証拠隠滅のために利用されることもあるという
そのレンジの広さは他に類を見ないであろう。

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↑勢いにまかせた、という先の作品とはやや趣を異にした大作。
緻密に火をコントロールしながら全容を作る。作る上でテクニカルな側面を感じさせる。

ギャラリー奥の壁面には壮大な「絵」としての作品が展示されている。
これは作家自身の制御力をもってして
まさに絵筆として火を用いたものであるが
これなどはまるで火と格闘している様が伺える。
飼いならすことは到底不可能な火を画材に選び、
田中作品はさらに科学的なアプローチでもってアートに転化されるのか、
さらに原初的な方向へ向かうのか、
はたまた強烈な社会性を放つのか、
文字通り、一度ついた火はどこまで作家の中で燃焼し尽くすのか
その手法に舌を巻きつつ、目が離せない作家であることは確かだ。

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