不器用な大天才…「マイ・アーキテクト ルイス・カーンを探して」

Category : ドキュメントDVD
カーン1

アメリカが誇る世界的な建築家のドキュメンタリーではあるが
有り体な、単に年代順に作品を記録したものではなく、
カーンという希代の建築家の謎に満ちた生涯に
2番目の愛人の子として生まれたナサニエル・カーンが
自分と父との関係、異父姉妹である他の2人との関係、
母に問う父との関係、自分にとって建築家である前の父としての
ルイス・カーンの過去を逆回しに追っていくものである。

カーンが設計した「ガラスの家」に今でも住むフィリップ・ジョンソンが語る。
「この家はとても使いにくいし、好きではない」
これは苦笑ものだが、しかしフィリップなりの親しみを込めたジョークであろう。
彼がこう言うことからも、それは伺い知れる。
「ライトは怒りっぽく、ミースは近寄りがたく、コルビジュは陰険…
でもカーンは…」言うまでもない。

人あたりの良さ(特に女性に対して。しかし同時に無頓着でもあった)が、
また彼の不可思議な生活というものを、あるいは伝説というものを生んだ要因だ。
事務所の人間にとっては最悪の師匠であったようだ。
住所もひた隠し、秘密主義者と揶揄もされている。私生活を最後まで明かさなかった。
ロサンゼルス駅のトイレで亡くなり、身元不明死体として扱われた。
すでに50万ドルの負債を追っていたというから、名声を得ても一文無しだったわけである。
ナサニエル氏は父の建築遺産を追いながら関わりのあった人物に会い、
忌憚なく当時の状況を探り出す。
それは図らずも揶揄や諦めや変人ぶりという芸術家にはしごく当然の
エピソードを耳にすることになる。

エストニアからフィラデルフィアへ移民してまもなく、好奇心から事故を起こし、
顔に大やけどを負い、スカー・フェイスと呼ばれ学校嫌いにもなったらしいが
その時、母は「これで強く生きられる」と言ったという。
背が低く、傷を持った彼はそれゆえ自己の内面の探求に心を砕き、
現代建築に「真理」を求める力としたのではないだろうか。

ソーク生物学研究所の圧倒的な存在感。完璧なアート。異次元の美しさ。
敷地を縦横無尽にローラースケートで無邪気に走るナサニエル氏。
地元のラジオのDJから「コンクリートの家畜小屋」と皮肉られた
ダラスのキンベル美術館。
カーンの「美術品は動いたり走ったりしない」と言う。
美術館という特化した「容れ物」としての建築物の
特性を的確に言い当てたフレーズである。

ナサニエル氏が小さい時に父と一緒に作った本(いうほど大げさなものでもないが)
にさまざまな船が書かれていて、子供が喜びそうな話でもでっちあげたのだろう、
しかし、海に浮かぶカーンならではの「楽団用の船」には驚いた。
火星からやってきたと言われるほどに奇抜だが、世界中の港に寄って
フルオーケストラで演奏できる船である。

ナサニエル氏はバングラディッシュ国会議事堂を訪ね、
このドキュメンタリーのエピローグとした。与えられた時間は10分。
バングラディッシュの建築家が
「10分でこの偉大な建築物を伝えることはできない」と嘆く。
氏も充分に承知している製作上のジレンマ。
実際に行かれた方のブログなどを拝見すると、あまりに巨大なために
どこを歩いて、何を記録したらいいのか呆然としてしまったとあった。
確かにこの広さでは手のつけようが無い。
何千人もの人が石を運び、20年かけて作り上げた国のモニュメントである。
パキスタンからの独立時には古代遺跡と間違われ、空爆されなかったという話は
「カーン建築」の核である「永遠性」と見事に結びつく。
結局カーンは完成を見る事無く亡くなってしまったが…。
先のバングラディッシュの建築家は目に涙を浮かべて言う。
「彼は世界で一番貧乏な国に世界で一番の国会議事堂を作った。
これはこの国の民主主義の象徴だ。彼は我々を愛してくれた。いや世界中の人を愛した。
それは家族への愛とは違ったものだったかも知れない。でも父親を責めるのではなく
理解してあげなさい」と。

ガウディの例を出すまでもなく、宗教に対する(それは人種に置き換えてもいい)
深い思いと建築がもたらす幸福をいかに具現化するかを大命題としたカーン。
1967年のフィラデルフィアの再開発に関して、当時の都市計画委員だった老人の
カーンへの全否定ぶりに見る頭の堅さと
カーンが提案した「車が乗り入れできない歩行者の街」との救いようのないギャップ。
実現していればアメリカの都市開発にとって
エポックメイキングな「奇跡」であったはずだ。

この映画については書き足りないほどに考えさせられた。
多くの建築家の方々に是非見ていただきたい。
建築の力と意義というものを改めて世に問う(こんなご時世だから尚のこと)
作品であり、偉大な建築家の「愛の形」を示した傑作である。

カーン

カーン3

上からソーク生物学研究所、バングラディッシュ国会議事堂
DVDジャケットもバングラディッシュ国会議事堂


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