「ほろ苦教育劇場 コドモダマシ」パオロ・マッツァリーノ著(春秋社)

Category : 100円本雑読乱読
コドモダマシ

子どもに訊かれて困ることは多い。
世の事情、言い換えれば浮世のしがらみほど、言葉にできない。
だからいろいろと訊かれるのは嫌だ。
よく言われたのが「大人になったらわかるから」という常套句であった。
その昔、小学生の低学年だった頃、
家では殴る蹴るの夫婦喧嘩(いや、どこへ出しても恥ずかしくないほどのDV)の真っ最中、
このままでは母が殺されるかもと、勢い外へ飛び出した私は
通りがかりの中年サラリーマンを掴まえて「助けてください!」と懇願した。
その時、彼の歪んだ困惑顔は
「君もね、大人になったらわかるんだよ。喧嘩するほど仲がいいんだから
心配しなくてもいいよ」と言い残して、あまりこの件には関わりたくない感じでとっとと消えた。
あの時の絶望感は今思い返しても中々なものだった。
結局、二人は仲なんかちっともよくなかったし、そのおかげで
今の私が居るのだと断言してもいいくらいに、
或る道筋を作ってくれたメガ反面夫婦だった。
本当にありがとう。

さてさて、なぜ格差が生まれるのかとか、
なぜ苦しい思いをしてまで受験しなくてはいけないのかとか、
なぜ働くのかとか、
なぜ、なぜ、なぜと子どもたちから正面切って問われたら
あなたは何と答えるだろうか。
私は思う。
そんな時「意義」なんてものを答えに込めるのが一番良くない、と。
例えば大学へ行くことの意義なんて、一番本人がわからないのではないだろうか。
わからないままにうまくいけば四年がすぎて、
わからないままに卒業して、何をしたいかもわからないままに就職する。
勿論そうでない人も居るが、明確に、ヴィヴィッドな目的意識をもって
日々を生きている人はそれほどには居ない。
もしかしたら、そんなものは生活する上で煩わしいことこの上ない代物かも知れない。
ところが大人というのはこの「意義を持て」を強要したがる。
それでは政治家の政治家たる意義とは何か。
もうここからして破綻しているのだから、知れたものだ。

私が思うに子どもたちに責任を持って“伝えなければ”いけないのは
何のために生きるのか、ということ。
どの親でも一回や二回は言われた「好きで生まれたんじゃない」という
彼らのとっておきのセリフは
とどのつまり親も一度や二度はかつてアタマん中をよぎった彼らの“切り札”であったろう。
人間は一人からは生まれてこない。
二人は必要なのだ。
大の大人が二人がかりで作ったんだから、そう簡単に死んではいけないのだ。
と、これで納得する子どもも、まず、居まい。
では「何のために生きるのか」。
残念ながら明快で明確な言葉を僕は知らない。
では、何のために生きるのかを知るために生き続ける、ってのはどうだろうか。
ウザいよな、それ…と思う。昔の自分だったら。
しかし還暦も近いこの歳になってみると、
以外とこれで自分自身納得している。
そんなものだ。
大人なんて勝手な生き物だ。
しかしそう思っている君たちもやがて、というか瞬く間に大人っていうのになっちまう。

この本が面白いのは小理屈並べて
「大の子ども」に世の“機微”とやらを解説する父の様子が可笑しいのだ。
加えてその父、つまり爺さんも、その仲間も登場して、
スタジオで専門家面しているコメンテーターみたいな連中のバカバカしさや
世の矛盾を説いていく、なるほどと思わせたり、
それ、ちょっと無理があるなぁと思わせたりする、
大人の無邪気さが切なくて哀しくて可笑しいのだ。

「大人になったらわかる」
一見、投げやりで無責任にも聞こえるこの言葉に実は
深い池を除き見る様な、謎めいた定理が潜んでいるのだ。
それは失敗や後悔や奥歯をぎりぎり噛み締める様な思いをすればこそわかることで、
何も成功することだけが正解ではないということも同時にわかってくる。
すべからず生きるということは痛くて残酷だ。
最近では(もっと前からだが)老いと向き合う辛さを実感している。
若い人たちが眩(まぶ)しくて、目が眩(くら)む。
ならば…と、この「老い」は開き直ったりするのだ。
開き直るだけの図太さもまた、大人であったりする。
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