「毎日がアルツハイマー」

Category : ドキュメントDVD
毎日アル

2013.3.3【甲西文化ホール】

企画・製作・監督・撮影・編集:関口祐加

アルツハイマー型認知症と診断された自分の母の
娘の目を通した日々を追ったドキュメンタリー。
2009年から2012年までの記録だが、
会場で手渡されたプロダクションノートの最後にあるエピローグに
そう「毎日がアルツハイマー」は現在進行形長編動画なのである!、とある。

監督である関口さんはドキュメンタリー映画監督としては実に輝かしい仕事ぶりで、
1989年にニューギニア戦線を女性の視点から描いた「戦場の女たち」で
メルボルン国際映画祭でグランプリを受賞。
国内外でも数々の賞を受賞している。
オーストラリアでの生活は29年に及ぶ。
その祐加さんのもとに母の様子がおかしいと日本からの連絡。
この映画が或る種の“勇断”とも言うべき
娘の潔さから発せられた、だからこそ成し得た作品であることは確かである。
29年も住んだオーストラリアから、そう簡単に
ハイ、それでは横浜の母の介護をしに帰ります、とはならないはずである。
この映画にはそういった一切の過程は描かれていない。
それはとても生臭い話だからだろうか。
当然、祐加さんのそのへんの葛藤や苦悩はあったにせよ、もはや知る由もない。
ただ、離婚して一人息子が居るということ。
その一人息子と別れた旦那が横浜に母に会いにやって来るというくだりには
一家が抱えてきた様々な問題が、どのようなカタチで収束するのかも、また暗示している。

その母、ひろこさんは至ってお茶目でカラッとした性格のお方。
数日前にケーキにロウソク立てて家族から祝ってもらったことなど、
もう記憶の彼方に消えている。
「お〜っと!」な親子関係、つまり親子ならではのツッコミ感満載で、
不穏になる場面は極力少なめに編集されているように感じた。
それは「毎日がアルツハイマー」というタイトルに表れているように
認知症が悲壮感を道連れに日々、介護者に降り掛かる現実などは
“現場”に居る身内であるならば言わずもがな、であるからだ。
そこを描いてみてもどこにも答えなど見つからないし、策も無い。
あるのは進行していくという残酷な宿命である。
ならば、今の自然のままに母と共に残された時間を過ごし、
アルツハイマーという“おおらかでやっかいな”神の恵みを受容しようという、
そんな思いが込められているような気がする。
映画の中で大学の先生か誰かが、
「認知症を可哀想だと捉える人が多いが、彼らは「死の恐怖」から
解放された人たちなんです。むしろ幸せなのかも知れません」
正確ではないが、そんなニュアンスのことを話されていた。

僕は現在、介護の職にある。
文字通り、介護者の端くれに居るわけだが、
特別養護老人ホーム、つまり特養と呼ばれる施設には
もちろんクリアな人も居るが、押し並べて認知症の傾向が強い方たちが多く、
もう一つのショートステイ、いわゆる短期滞在型の施設には
実に様々なタイプの利用者が来られる。
自ずとその対応も対処も異なってくる。
先の先生が言われたような「解放される」前の、もっと言えば直前の悩ましさは
見ていて痛々しいものがあるのだ。
記憶障害を自らが実感する時に起こる自責の念や情けなさ、不甲斐なさに
やがて“壊れ行く”自分を時系列に客観しているような怖さが生じるのかも知れない。
要するに“行き切ってしまえば”楽になれるという説明も
当人ではないので無責任といえば無責任な発言であろう。
ショートステイのリピーターは明らかに“落ちて”来る。
以前にわかっていたことが、今ではわからない、などということが
日常茶飯事になる。

先日、三回忌を済ませた僕の母もまたアルツハイマーで亡くなった。
その不穏さは、そのまま、中々他人へは伝わりにくいもので、
身内ならではの哀しさに悔しい思いすらする。
この映画がそんな介護者にとって、或る種の救いになるやも知れぬ、
それは、確実に娘の名前も顔もわからなくなる時が訪れるまでの
いやそれ以後も、母への感謝と愛への表現として、
奇しくも映像作家として生きている娘の奇跡と捉えてもいいだろうと思う。

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